ぼくが経理業務も始めて間もないころ、日商簿記2級の勉強をしている際に有形固定資産の圧縮記帳について、
「こういう会計処理もあって税務上も損金扱いできるのか~」
みたいに思っていました。
それから数年、一度も圧縮記帳に出くわしていない(会社が圧縮記帳する意思がない)ので、個人的には伝説上の会計処理となっていて興味がわいたので、試験対策用程度の解説をしたいと思います。
圧縮記帳とは?
圧縮記帳とは、補助金や保険金などを受け取って有形固定資産を取得した際に、圧縮限度額までを有形固定資産の取得原価から控除して簿価計上することです。
ここで、圧縮限度額は例えば補助金の場合は、受け取った補助金を有形固定資産の購入に充てた金額となっています。例えば、1,000万円の補助金を受け取って、3,000万円の有形固定資産を購入した場合、有形固定資産として2,000万円で計上できます。
そして、減価償却の対象となる価額は原則、圧縮記帳後の簿価となります。例えば上記の有形固定資産を期首に取得し、法定耐用年数が5年で定額法で減価償却させる場合、減価償却費は、
3,000万円 ÷ 5 = 600万円
ではなく、
2,000万円 ÷ 5 = 400万円
となります。
減価償却費が減少してるから課税所得が増えてると思うかもしれませんが、有形固定資産の簿価を減少させる際に、固定資産圧縮損という科目を使用して費用計上しているので、有形固定資産を最後まで償却させるとそれに係る費用計上額は同額になります。
例えば先ほどの3,000万円の有形固定資産を取得した例を考えると、圧縮記帳をしない場合は有形固定資産を全て償却させると減価償却費2,999万円(備忘簿価として1円残します)、固定資産圧縮損は0円となり、合計で2,999万円費用計上されます。また圧縮記帳をした場合は、減価償却費1,999万円、固定資産圧縮損は1,000万円となり、合計で2,999万円費用計上されることとなり、圧縮記帳をする場合としない場合では差がないことがわかります。
両者の違いは、有形固定資産を取得年度に課税所得を小さくさせるかどうかです。
先ほどの例で、圧縮記帳をしなかった場合、取得した有形固定資産にかかる初年度の費用計上額は、減価償却費の600万円です。一方圧縮記帳をした場合の取得した有形固定資産にかかる初年度の費用計上額は、固定資産圧縮損と減価償却費の1,400万円となります。
つまり、圧縮記帳をした場合の方が初年度の課税所得が小さくでき、その年度の法人税額を抑えられます。よって、高額な支出をした翌期に納める確定法人税額(未払法人税)が少なくできるので、資金繰りが楽になります。
基本的には、取得した有形固定資産が事業の用に供してから収益を生み出し、キャッシュフローを生み出すまでには時間がかかります。そのため、短期的なキャッシュアウトを抑制するこの制度はありがたいですね。(うちの会社ではやってないが)
ただし、圧縮記帳を税法上に適用させるには様々な要件があるようなので注意が必要です。例えば、会計上で損金経理を行っている、法人税申告書の別表13に記入するなどです。
では、次に会計処理を見ていきましょう。
圧縮記帳の会計処理
圧縮記帳の会計処理には①直接減額方式と②積立金方式があります。
①の直接減額方式は、前項のように有形固定資産の帳簿価額を減少させて処理する方法です。
②の積立金方式とは、有形固定資産の帳簿価額を減少させない代わりに、任意積立金である圧縮積立金を積み立て、それを取り崩していく処理です。
積立金方式はわかりずらいですので、まずは直接減額方式から説明していきいます。
まず、設例を見てみましょう。
設例
- x1年期首に車両運搬具3,000万円を購入。
- 内1,000万円は国庫補助金受け入れによる。
- 購入した車両運搬具の法定耐用年数は5年で、定額法で減価償却。
- x1年期首での繰越利益剰余金は2,000万円で、利益の処分(配当金など)はないものとする。
- x1年度の純利益は800万円で、x2年度の純利益は900万円とする。
- 法定実効税率は30%とする。
- 補助金受け入れ時、購入時、圧縮記帳時、決算時の仕訳を示せ。
直接減額方式
直接減額方式の場合、前述したとおり受け入れた補助金のうち、有形固定資産の購入に充てた額を固定資産圧縮損として有形固定資産の簿価から直接減額します。
まず補助金の受け入れ時の仕訳は、
借方科目 | 金額(万円) | 貸方科目 | 金額(万円) |
現金預金 | 1,000 | 国庫補助金受贈益 | 1,000 |
つぎに購入時の仕訳は、
借方科目 | 金額(万円) | 貸方科目 | 金額(万円) |
車両運搬具 | 3,000 | 現金預金 | 3,000 |
そして圧縮記帳時の仕訳は、
借方科目 | 金額(万円) | 貸方科目 | 金額(万円) |
固定資産圧縮損 | 1,000 | 車両運搬具 | 1,000 |
ここまでの仕訳の通り、国庫補助金受贈益で収益計上した金額を、圧縮記帳により固定資産圧縮損で費用計上しています。したがって、補助金を受けいれた分の課税所得が増えないようにしています。
もし仮に圧縮記帳をしない場合は、3番目の仕訳が不要となるので補助金の1,000万円はそのまま課税所得となってしまいます。
最後に、減価償却の仕訳は、
借方科目 | 金額(万円) | 貸方科目 | 金額(万円) |
減価償却費 | 400 | 減価償却累計額 | 400 |
となり、圧縮後の価額(2,000万円)を基に、法定耐用年数5年、定額法で減価償却してます。
仮に、圧縮記帳しない場合は3,000万円の取得原価を基に計算するため、減価償却費は600万円となります。圧縮記帳をする場合としない場合では、減価償却額は200万円多くなっていますが、これは圧縮記帳時に補助金の1,000万円を益金にいれなかった分を5年で回収(200万円×5年)していることになります。つまり、トータルの課税所得は同じです。
ここで、税法上も有形固定資産の圧縮記帳による処理を認めているので、税法上の貸借対照表の車両運搬具の簿価と、企業会計上の車両運搬具の簿価は一緒になり、一時差異は発生しなく税効果会計は不要となります。
積立金方式
直接減額方式の場合、帳簿残高が取得原価とならずに圧縮後の残高となるため、資産価値は少なく見えてしまいます。対して、積立金方式の場合は取得原価のまま表示できます。
しかし、税法上は直接減額方式を基本としているため、税法上の貸借対照表は圧縮後の金額で表示されます。これに伴い、積立金方式の場合の貸借対照表価額(圧縮前の取得原価)との間に差が生じます。したがって、積立金方式の場合は税効果会計が必要になってきます。
設例を見ていきましょう。補助金受け入れ時と、購入時の仕訳は直接減額方式と同じになります。
補助金受け入れ時は、
借方科目 | 金額(万円) | 貸方科目 | 金額(万円) |
現金預金 | 1,000 | 国庫補助金受贈益 | 1,000 |
購入時は、
借方科目 | 金額(万円) | 貸方科目 | 金額(万円) |
車両運搬具 | 3,000 | 現金預金 | 3,000 |
そして圧縮時は、剰余金(繰越利益剰余金)の処分により圧縮限度額(今回は補助金受入額)を圧縮積立金を積み立てます。
ただし積立金方式の場合、固定資産(車両運搬具)の帳簿価額が税法上と比べ1,000万円多く計上されるため、将来加算一時差異が生じます。
それに伴い、法定実効税率30%で税効果会計を適用し、算定される繰延税金負債の額を控除した圧縮積立金を計上します。
借方科目 | 金額(万円) | 貸方科目 | 金額(万円) |
繰越利益剰余金 | 700 | 圧縮積立金 | 700 |
法人税等調整額 | 300 | 繰延税金負債 | 300 |
ここで、なぜ圧縮積立金の額は繰延税金負債の額を控除したものになるのかというと、今回は1,000万円の補助金の収益が税法上と比較して多いので、税引き前の当期純利益は税法上と比べ1,000万円多くなってます。そこから実効税率30%の法人税等が減額され、最終的な当期純利益は積立金方式の方が税法上よりも700万円多くなっています。よって、700万円の剰余金を取り崩して圧縮積立金に振り替えることで一致します。
次に減価償却時は、取得原価をもとに減価償却費を算出します。今回の場合は取得原価3,000万円、法定耐用年数5年なので600万円となります。
そして減価償却費も税法上の額と異なり、償却限度額は直接減額方式による400万円となるので、200万円は損金不算入となります。
したがって、60万円を繰延税金資産として計上します。(200万円 × 30%)
借方科目 | 金額(万円) | 貸方科目 | 金額(万円) |
減価償却費 | 600 | 減価償却累計額 | 600 |
繰延税金資産 | 60 | 法人税等調整額 | 60 |
最後に、圧縮積立金の取崩し時は、前述で計上した圧縮積立金を減価償却と同じ年数で取り崩します。今回の場合ですと、140万円(700万円 ÷ 5)となります。
そして、圧縮積立金の取崩しにより将来加算一時差異の一部が解消されるので60万円(300万円 ÷ 5)の繰延税金負債を取崩します。
また、圧縮積立金の取崩しにより、車両運搬具の帳簿価額の差異が一部解消されているので、それに伴う償却限度額を超えた分の繰延税金資産も取崩します。これは先ほど計上した繰延税金資産と同額です。
借方科目 | 金額(万円) | 貸方科目 | 金額(万円) |
圧縮積立金 | 140 | 繰越利益剰余金 | 140 |
繰延税金負債 | 60 | 法人税等調整額 | 60 |
法人税等調整額 | 60 | 繰延税金資産 | 60 |
よって、決算時の仕訳は減価償却と圧縮積立金の取崩しをまとめて、
借方科目 | 金額(万円) | 貸方科目 | 金額(万円) |
圧縮積立金 | 140 | 繰越利益剰余金 | 140 |
繰延税金負債 | 60 | 法人税等調整額 | 60 |
法人税等調整額 | 60 | 繰延税金資産 | 60 |
減価償却費 | 600 | 減価償却累計額 | 600 |
繰延税金資産 | 60 | 法人税等調整額 | 60 |
試験の解答時は、3行目と5行目の仕訳は相殺して回答しても構わないと思います。
最後に
圧縮記帳の会計処理には、直接減額方式と積立金方式の2種類がありましたが、税務上は直接減額方式を原則とし、企業会計原則上では積立金方式が望ましいとされているようです。
前項で解説したように、積立金方式による圧縮記帳は煩雑で事務負担が大きくなると思われますので、監査法人等による法定監査を必要としない中小企業はまず採用されないのではないでしょうか?そもそも、ぼくが所属している会社のように圧縮記帳をやらない場合もあります。
もし必要になった場合は、今回の記事を参考にしていただければ幸いです。
ちなみに問題文だと補助金を受給した後に固定資産を購入してるケースが多いですが、ぼく個人の実務のケースだと補助金を先に受給したことはないです。
担当者によると、補助金の受給要件を満たしたうえで入金確認が取れる資料を添付することで受給できるようなので、先に補助金を受け取ることは見かけたことはないそうです。
設備投資することで企業の活性化を図る補助金であるならば、先に補助金を受給した方が設備投資できる企業は増えると思いますが、先に補助金を受給し実際には設備投資を行わずに運転資本に回すようなケースも考慮するとなかなか難しい問題だと思います。
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