建設業経理士1級の試験にもよく出題される問題で、
- 工事収益総額
- 工事原価総額の見積
- 各年度の実際発生工事原価
が与えられていて、工事進捗度を原価比例法により算定し、工事収益、工事原価、工事利益を求める問題を、個人的な解法を紹介したいと思います。(我流なので自己責任でお願いします。)
基本問題
設例1
- 決算日は3月31日。
- 工事期間はx1年4月1日~x3年3月31日。
- 工事収益総額は7,500万円。
- x1年度末から完成までの工事原価見積額は2,000万円。
- x2年度末から完成までの工事原価見積額は1,100万円。
- 発生工事原価はx1年度が3,000万円、x2年度が1,400万円、x3年度が1,200万円。
- 工事進捗度は原価比例法による。
- 各年度の工事収益、工事原価、工事利益はいくらか。
解答例1
ぼくは普段、次のような図を描いて解いています。

縦の①~③は各年度となっていて、1行ずつ各年度ごとの工事原価や工事収益等を表しています。
まず、今回の問題の場合、各年度の実際に発生した工事原価が与えられているので、工事原価の列に
①工事原価 = 3,000万円
②工事原価 = 1,400万円
③工事原価 = 1,200万円
と記入します。
次に、工事原価総額を算定します。
問題文には各年度末での完成までに要する工事原価総額が記述されていますので、各年度に発生した実際工事原価を基に算定します。すなわち、
①工事原価総額 = 1年度に発生した工事原価 + 完成までの見積額
= 3,000 + 2,000
= 5,000万円
②工事原価総額 = 1+2年度に発生した工事原価 + 完成までの見積額
= 3,000 + 1,400 + 1,100
= 5,500万円
③工事原価総額 = 1+2+3年度に発生した工事原価(x3年度に工事は完成しているため)
= 3,000 + 1,400 + 1,200
= 5,500万円
これを工事原価総額の列に記入します。
次に進捗度を計算します。
各期末までに発生した工事原価の総額をその期末時点での工事原価総額で除します。すわなち、
①進捗度 = 1年度末までに発生した工事原価 ÷ 1年度末時点の工事原価総額
= 3,000 ÷ 5,000
= 0.6
②進捗度 = 2年度末までに発生した工事原価 ÷ 2年度末時点の工事原価総額
= (3,000 + 1,400) ÷ 5,500
= 0.8
③進捗度 = 3年度末までに発生した工事原価 ÷ 3年度末時点の工事原価総額
= (3,000 + 1,400 + 1,200) ÷ 5,600
= 1.0
これを進捗度の列に記入します。
次に工事収益総額ですが、第1期から7,500万円と変更ありませんので、この値を工事収益総額の列に記入します。
次に各期の工事収益を計算します。
各期末までの工事収益額は、その期末時点での工事収益総額に進捗度を乗じて算出します。
つまり、
工事収益額 = 期末時点の工事収益総額 × 進捗度
となりますが、これは各期末までの工事収益額となります。
つまり、ある期のみの工事収益額を算出するためには、上記の式で得られた工事収益額から、前期までに計上した工事収益額を引く必要があります。すなわち、①~③に計上される工事収益額は
①工事収益 = 1年度末での工事収益総額 × 1年度末時点での工事進捗度
= 7,500 × 0.6
= 4,500万円
②工事収益 = 2年度末での工事収益総額 × 2年度末時点での工事進捗度 - ①の工事収益
= 7,500 × 0.8 - 4,500
= 1,500万円
③工事収益 = 3年度末での工事収益総額 × 3年度末時点での工事進捗度 - ①と②の工事収益
= 7,500 × 1.0 - (4,500 + 1,500)
= 1,500万円
これを工事収益の列に記入します。
また今回の問題では、③期で工事は完成しているので、①~③の工事収益の合計額は完成時点での工事収益総額と一致します。(そもそも、一致するように計算しているので、一致しない場合はどこかで計算ミスをしているはず。)
最後に、各期の工事収益から工事原価を引いて工事利益を算出します。
これを、工事利益の列に記入します。
以上から、設問の解答の各期の工事収益、工事原価、工事利益は図の通りとなります。
次にこの図に他の情報を書き加えて、他の応用問題も解いていきましょう。
応用問題
設例2
- 決算日は3月31日。
- 工事期間はx1年4月1日~x4年予定。
- 工事収益総額は960,000千円。x3年度に1,000,000千円に変更。
- 工事原価総額は672,000千円。x2年度に1,008,000千円、x3年度に1,032,00千円に変更。
- 発生工事原価はx1年度が134,400千円、x2年度が470,400千円、x3年度が324,000千円。
- 工事進捗度は原価比例法による。
- 1~3年度の工事収益、工事原価、工事利益、工事損失引当金はいくらか。
解答例2
次は問題文にもあるように、工事損失引当金が計上されるパターンです。
同じように図を描きますが、列を追加したり、補足事項を書き加えます。

図を見ていただくとわかりますが、先ほどの図へ工事損失の列と工事損失引当金の列を増やし、さらに工事損失引当金の増減を表しました。
解答方法ですが、まず工事利益までの計算方法と記述は先ほどと同じです。
工事原価総額と工事原価と工事収益総額は問題文にあるので、そのまま転記します。
進捗度は
① = 工事原価(①) ÷ 工事原価総額(①) = 134,400 ÷ 672,000 = 0.2
② = 工事原価(①+②) ÷ 工事原価総額(②) = 604,800 ÷ 1,008,000 = 0.6
③ = 工事原価(①+②+③) ÷ 工事原価総額(③) = 928,800 ÷ 1,032,000 = 0.9
となり、これらから工事収益を算出すると
① = 工事収益総額(①) × 進捗度(①) = 192,000
② = 工事収益総額(②) × 進捗度(②) - 工事収益(①) = 384,000
③ = 工事収益総額(③) × 進捗度(③) - 工事収益(①+②) = 324,000
となります。また、工事利益は、
① = 工事収益(①) - 工事原価(①) = 57,600
② = 工事収益(②) - 工事原価(②) = -86,400
③ = 工事収益(③) - 工事原価(③) = 0
となりますので、こちらを記入します。
次に工事損失を算定します。
工事損失はその期の工事収益総額から工事原価総額を引いて、マイナスの値となる場合に認識します。
すなわち、
① = 工事収益総額(①) - 工事原価総額(①) = 288,000 > 0 ⇒ 工事損失なし
② = 工事収益総額(②) - 工事原価総額(②) = -48,000 < 0 ⇒ 工事損失 = 48,000
③ = 工事収益総額(③) - 工事原価総額(③) = -32,000 < 0 ⇒ 工事損失 = 32,000
これらを工事損失の列に記入します。
ここで、工事収益総額が見積工事原価を下回ってる場合、発生主義と保守主義の観点から、工事損失が発生した期に損失を計上するために工事損失引当金を計上します。
①では工事損失はないので工事損失引当金を計上する必要がありません。つまり0です。
②の時点では工事損失は48,000千円となっています。
また、①の工事利益57,600千円と②の工事利益-86,400千円とを合わせて、②期末までには
57,600+(-86,400) = -28,800千円
の工事利益(今回は損失)を計上しています。
すなわち、②期末時点ではこの工事全体で48,000千円の損失が見込まれる中、この時点では28,800千円の損失を計上しています。この差額を工事損失引当金として計上します。つまり、
工事損失引当金 = 48,000 - 28,800 = 19,200千円
これを、当期の工事損失引当金とします。
また、①期末時点では工事損失引当金は0となっているので、①期末時点と②期末時点での工事損失引当金の差額を繰入額として当期の損失に計上します。
工事損失引当金繰入 = 19,200 - 0 = 19,200千円
この工事損失引当金繰入は、工事原価へ算入させるので、上の図の工事原価の列に括弧内で表示しています。これは、工事損失引当金を認識する前後がわかるようにするためです。
そして、工事原価が変化するので工事利益も変化し、②期末での工事収益、工事原価、工事利益、工事損失引当金は、
②工事収益 = 384,000千円
②工事原価 = 489,600千円 (470,400 + 19,200)
②工事利益 = -105,600千円 (-86,400 - 19,200)
②工事損失引当金 = 19,200千円
となります。
次に③期を考えます。同じように、まず工事損失引当金を考慮する前の工事収益等を算出します。
問題文、計算結果より、工事原価総額、工事原価、進捗度、工事収益総額、工事収益、工事利益は、
引当前③工事原価総額 = 1,032,000千円
引当前③工事原価 = 324,000千円
引当前③進捗度 = 0.9 (①~③までの工事原価を③の工事原価総額で除す)
引当前③工事収益総額 = 1,000,000千円
引当前③工事収益 = 324,000 (③の工事収益総額に③の進捗度を乗じて、①~②の工事収益を引く)
引当前③工事利益 = 0千円
となります。
次に、③期末時点での工事損失引当金を計算します。
先ほど、③期末時点では工事損失は32,000千円となることを計算しました。ここで、①~③までに計上されている工事利益は
①工事利益 = 57,600千円
②工事利益 = -86,400千円 (引当前)
③工事利益 = 0千円 (引当前)
となっており、その合計は57,600 +( -86,400 ) + 0 = -28,800千円となります。工事利益がマイナス、つまり①~③までは工事全体で28,800千円の損失が計上されています。
よって、③末時点では32,000千円の工事損失が見込まれる中、28,800千円までが工事損失として計上さているので、その差額を工事損失引当金として計上します。すなわち、
工事損失引当金 = 32,000千円 - 28,800千円 = 3,200千円
これを当期の工事損失引当金とします。
ここで、②末時点の工事損失引当金は19,200千円となっていて、当期末時点では3,200千円となっているので、その差額を工事損失繰入としますが、その値は
3,200 - 19,200 = - 16,000 < 0
と、②期との差額は負の値となっています。
つまり、③期末時点では時期以降に繰り延べる損失は減少しているので、負債つまり工事損失引当金が減少していますので、②期と③期の工事損失引当金の差額は工事損失引当金戻入として処理します。つまり、
工事損失引当金戻入 = 19,200 - 3,200 = 16,000千円
となります。これを③期の工事原価から控除させるので、それに伴い、工事利益も変化します。
よって工事損失引当金後の③期の工事収益、工事原価、工事利益、工事損失引当金は、
③工事収益 = 324,000千円
③工事原価 = 308,000千円
③工事利益 = 16,000千円
③工事損失引当金 = 3,200千円
となります。
最後に
今回は、問題を解く場合に実際にどういった形式で解いていけばいいのかについて記述しました。
テキストには解答に至るまでの計算式が書かれてばかりで、実際にどういった形式で解いていけば時間効率がいいかなどといった、試験対策について書かれていないことがほとんどです。(日商簿記1級、建設業経理士1級といった試験対策用のテキストであるにもかかわらず)
今回のテーマの3期間の工事収益等の推移を求める問題に関しては、図を描いて解いていくと楽だと思います。特に、応用問題の設例2のような問題の場合、考えることも多くいちいち仕訳を書いていって、最終的な科目残高を求めると時間が足りなくなります。
いかに効率よく問題を解いていくか、これについて考えて実践していくことは、実務でも非常に重要なスキルです。
みなさんも時間のかかる問題に出くわした場合、いかに早く解けるのか考え、実践していきましょう。
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